ラグビーにおけるスプリントパターン
フィールドスポーツにおいてスピード(Speed)と加速力(Acceleration)は重要なフィジカル要素であり、成功を収めるための鍵となる。
スピードのある選手は相手を抜く場面や追いかける場面でも、有利にプレーすることが可能である。
スピードが速ければ相手よりも先にポイントに行き、ボールに対して働きかけることができる。
近年、ランニングパフォーマンスの改善もストレングス&コンディショニング(S&C)コーチの役割のひとつとなりつつある。
スピードトレーニングを指導するにあたり、その競技のスプリントパターンを理解しなければならない。
ラグビーにおけるスプリントパターンをDuthie(2003)の研究を基にを考察する。
Duthie(2003)は、トップレベルのラグビー(Super12)選手(FW 16選手・BK 12選手)のスプリントパターンのビデオ分析を行った。
一試合における平均スプリント回数:FW14±6回 BK 19±7回
平均スプリント時間:FW 2.50±1.57s BK 3.08±1.64s
一試合における平均スプリント距離: FW 94±27m BK 253±45m (Deutsch et al.,1998)
■FW・BK共に 、オフェンスでのスプリントの割合のほうがディフェンスでの割合よりも大きい。
■ほとんどのスプリントでボールコンタクトがない(ボールなしでのスプリント)(67%)
■スプリントの多くが、サポートプレーやデコイラン、カバーデイフェンスで行われている。
スプリントスタート
■FW スタンディングからのスタート(40%)、ジョギング(30%)、ウォーキング(23%)、ストライド(7%)
■BK スタンディング、ジョギング、ウォーキング、からのスタートの割合はほぼ同じ。ストライドからのスプリントは(14%)
スプリントを開始したときの相手との距離
○近い(< 5m)
○やや近い(5 ~15m)
○離れている(> 15m)
■FW 近い(46%) やや近い(33%) 離れている(21%)
■BK やや近い(44%) 離れている(36%) 近い(20%)
スプリントスピードでの方向転換(Changs of direction)
■加速局面および最大スピード局面において方向転換は行われるがその頻度は少ない(FW 8% BK 22%)
■BKはスプリントを開始したとき相手との距離があり、空いているギャップに走りこむ機会が多いため方向転換をする割合が大きい。
■FWはスプリントを開始したとき相手との距離が近いため、アドバンテージラインを越えようとより強いストレートランを行う傾向にある。
スピードトレーニングを指導するにあたって考慮すべき点
■ランニングパフォーマンスを改善するためには、加速局面および最大スピード局面でのランニング技術の習得が必要である(Young et al., 2001)
■ラグビーにおけるスプリントは、FW・BK共に短時間(2~4秒)である。
■ラグビーのスプリントパターンを考慮すると加速力がより重要である。
■ラグビー選手へのスプリント指導は、短時間でトップスピードに到達するための加速力を向上させるトレーニングが重要である(Sayers, 1998)
■スタンディングスタートだけでなく、さまざまな速度(ウォーキング、ジョギング、ストライド)からのスタート練習を取り入れる。
■特にBKで、加速局面および最大スピード局面での方向転換のトレーニングを行うべきである。
スピードトレーニングプログラム(サンプル)
■ウォームアップドリル(20m)
○Walking Lunge
○A Skip
○Butt Kick
○Side Step
○Carioka
○Backpedal
○Backward Run
○Ankle Bound
■スピードドリル(20m)
○Skip up (High Knee Skip & Bound)
○Straight Leg Bound
○Speed Bound
■加速局面のトレーニング
○スリーポイント(片手を地面につけた三点支持の姿勢)からのスタートドリル(20~30m)
○スレッドラン(20m)
○20m加速走(脚の回転数を意識する)
■最大スピード局面のトレーニング
○60mテンポ走(最大スピードの約80 %のスピードで行う)
○ハードルスプリント
■方向転換
○フラッグステップ
○フラッグスワーブ
■柔軟性トレーニング
○ヒップフレクサー(ストレッチバンド)
※上記のプログラムはサンプルです。スピードトレーニングを行う際は、トレーニングの専門家にご相談ください。
【参考文献】
Deutsch M.U. et al., (1998). Heart rate, blood lactate and kinematic data of elite colts (under-19) rugby union players during competition. Journal of Sports Sciences. 16:561-570. (Publisher)
Duthie G.M. (2003). Descriptive Analysis of Sprint Patterns in Super 12 Rugby. The gastrolyte VIS international science and football symposium, Melbourne, 23 March, Speakers Notes. (PDF)
Sayers M. (1998). Running techniques for running rugby. ask-applied sports knowledge. (PDF)
Young W., Benton D., Duthie G., and Pryor J. (2001). Resistance Training for Short Sprints and
Maximum-speed Sprints. Strength & Conditioning Journal. 23(2):7-13. (Publisher)